食材にこだわる飲食店が増えた今、料理人が行き着くのが包丁へのこだわり。 包丁の質や手入れの行き届いた店は、例外なく美味しい。
「味でつなぐ 料理人探訪」は、グルメサイトのレーティングでは伝えきれない、本当に美味しい店を紹介するシリーズ。
包丁から見えてくる技術、哲学、そして食へのまなざし。 料理人の内面に踏み込み、本質を探る。
第11回目は、日本橋にある「すし処 和屋」。和食一筋に修行を重ね、新鮮な食材にこだわる店主の朝田 和夫氏にお話を伺った。
食材にこだわる飲食店が増えた今、料理人が行き着くのが包丁へのこだわり。 包丁の質や手入れの行き届いた店は、例外なく美味しい。
「味でつなぐ 料理人探訪」は、グルメサイトのレーティングでは伝えきれない、本当に美味しい店を紹介するシリーズ。
包丁から見えてくる技術、哲学、そして食へのまなざし。 料理人の内面に踏み込み、本質を探る。
第11回目は、日本橋にある「すし処 和屋」。和食一筋に修行を重ね、新鮮な食材にこだわる店主の朝田 和夫氏にお話を伺った。
福岡県の門司で生まれ育ちました。 関門海峡の港町なので、子供の頃から父親とよく釣りに行ってました。
高校1年生の時、同級生が寿司を食べに行こうと誘ってくれたんです。 そいつは妙に慣れていて、「ちょっと一通り握って。」なんてオーダーしていました。 それがカウンターで食べる初めての寿司だったので感動したものです。
そこからは、新聞配達のアルバイトの給料が入ると、友達を誘って寿司を食べに行っていましたね。
将来は手に職、と考えていました。元々料理が好きだったので、ラーメン屋になろうと思っていたんです。高校3年生の進路を決めるときも、卒業したらどこかのラーメン屋で修業させてもらおうと思っていました。
ある日、担任の先生に「朝田、お前進路は一体どうする気や。」と言われたので「どこかのラーメン屋で修業します。」と答えると、「そんなに料理が好きやったら板修行でもせえ。」と言われたのが料理人になったきっかけですね。
最初の修行先は京都の仕出し屋でした。物凄く忙しい仕出し屋で、住み込みで5年勤めました。店主が病気になってしまい、跡を継ぐお話も頂きましたが、私自身はもう少し勉強したかったのでお断りして、大阪に出てきました。
とりあえず大阪にアパートを借りたものの、ツテがあったわけじゃなかったので、地図を見て職業安定所に行きました。職業安定所で飲食関係を探すも、給料5万とかの求人ばかりで。掲示されているボードをふと見ると"最新の求人"と書かれていた中に、「英ちゃん冨久鮓」がありました。給料もその当時にしては良かったので、すぐに求人票を取って職員に電話してもらったところ、今から来てくれと。結局、「英ちゃん冨久鮓」では12年修行しましたね。
生姜の仕込みや、ポン酢の合わせ方など、今のベースとなるものを学びました。これまでの仕出し屋での修行とまた違っていて楽しかったです。
仕出し屋は、どうしてもお客様から見えないところで作業することになりますから。お客様の前に立つ板場の料理人というのに憧れていたんです。直接お客様の反応を見られることが嬉しかったですね。
ちょうどバブルが弾けた頃、自分のなかで一人前になったという思いがあったので独立の決心を固めました。34歳の時です。
最初は黒門市場の近くに、8席だけのお店を構えました。修業先に迷惑をかけてはいけないので、宣伝もせずに始めたんです。だから最初の1年はお客様が来なくて苦労しました。
そんな時、ある割烹の店主が偶然来店されたことがきっかけで、段々と口コミでお客様が来てくれるようになりました。
あとは、あまから手帖さんに取り上げて頂いたことで一気に忙しくなりましたね。
店が手狭になったこともあって道頓堀の方に移転しました。そこで10年しましたが、老朽化もあって再び移転し、今の場所に落ち着きました。
毎日、旬の食材を見極めて仕入れるため、黒門市場には欠かさず通います。常連のお客様も多いので、たまには変わった魚を仕入れて、アドリブっぽい料理を出すのも喜ばれますね。
特徴的なガリは、一般的なスライスではなく拍子切り。実はこれ、時間短縮のための工夫なんです。一人で商売を始めると、まず時間が足りない。そこで効率良く作業できる拍子切りにしたところ、お客様の評判も良く、そのまま定着しました。食べ応えもありますよ。ガリっというからガリなんでね。
煮切り醤油にしても、ガリにしても、修行で培った技術や味は、お客様にきちんと届けたいと思っています。
道具屋筋商店街のなかでも、置いてある包丁の種類が豊富だったことがきっかけで、堺一文字光秀の包丁を使い始めました。かれこれ35年前ほど愛用しています。
実際に使ってみると、鋼が非常に良い。粘りがあって、欠けにくいところも気に入っています。包丁は研ぎ方や手入れなど、使い手の扱い方次第だと考えています。毎日の研ぎは欠かしません。
最近は包丁職人の方も減ってきていると聞いて心配しています。
一番大事にしているのは、お客様に満足して帰ってもらうこと。食事のなかで、たとえ1品でも、もうひとつやなぁと思われるようではあかんのです。常に100点、パーフェクトでありたい。そう思っています。
一緒に店を切り盛りしているのは、息子さんの孝紀氏。 息子さんが料理人の道を選んだとき、どう思ったのか——。
「アホやなぁと思いましたよ。この道の大変さを分かっとらんのやろなと。 でも継いでくれるなら、お客様が喜びます。」
そう笑う大将の表情には、照れくささと、父親としての喜びが滲んでいました。
一方、孝紀氏はこう語る。
「学生時代、父とはあまり話すことがなく、 ただ寡黙な人だと思っていました。 けれど、父と同じ厨房に立つ中で、味や店を守る父の矜持が、少しずつ肌で分かるようになってきたんです。" わかる人だけを大事にする"。 そんな姿勢で、人情の通い合う店を続けてきたのだと思うと、今では心から尊敬しています。」
すし処 和屋
予約・問い合わせ 06‐6647‐1238
※会員制とありますが、事前に電話予約すれば初めての方も入店可能です。
住所 大阪市中央区千日前2丁目-5-2 歯科センタービル1F
営業時間
17:00~22:00
定休日 毎週月曜日
「味でつなぐ - 料理人探訪Vol.11 すし処 和屋」
動画でもご視聴頂けます。
大将愛用の包丁はこちらから。